「あ……あの、課長? 熱は無いようですけど?」

 むしろ、熱いのは課長の両手にすっぽりと包まれた、私の両頬だ。

 ドキドキと、自分の脈動が、うるさいくらいに頭に響く。

「君って人は、まったく」

 そう言うと、課長は額をくっつけたまま、又小刻みに肩を震わせている。

――これは、もしかしたら、怒っているんじゃなくて、笑っている……の?

「どうして、こんなに変わらないんだろうな」

 笑いをこらえているのではなく、どこか愁いを帯びた優しい声音に、ドキンと鼓動が大きく乱れ打つ。

 何を思ったのか、課長は額をくっつけたまま私の両頬を『ぶにっ』っと引き伸ばし喉の奥で笑った。

「ほんっと、見事なくらいに、ぜんぜん変わらない」

 そう言えば昔、付き合っていた頃、よくこうやってほっぺたの肉を『ぷにぷにっ』と引っぱられたような記憶がある。

 あるけど。

「ひたひれすっ」

 気恥ずかしさをごまかすように『痛い』と不平の声を上げるけど、頬を引っ張られたままなので上手く発音ができない。

 課長は、ただ楽しそうにクスクスと笑っている。

――なんだ、この状況は。

 課長が変だ。ものすごく、変。

「はちょう?」

 身を引くと、両頬の戒めは意外なくらいあっさりと解かれ、私は課長の顔を仰ぎ見た。