まるで、両手と両手を握りあった恋人同士――

 に見えなくもないこの状況に、ただでさえ過負荷気味の脳細胞は仕事を完全に放棄してしまった。

――頭、真っ白だ。何も、考えられない。

そうしている間にも、課長の顔が近づいてくる。

――う、うわぁ!?

「自分じゃ分からないから、測ってくれるか?」

「……え?」

 測って……って、熱を?

 あ、なんだ、そういうことか。

『ん?』と、額を突き出す課長の瞳には、悪戯を思いついた子供のような、楽しげな笑みが浮かんでいる。

 両手を封じられて額を出されたら、残る熱を測るための方法はただ一つしか浮かばない。

――あ、遊ばれてる。

「前の時は、こうして測ってくれただろう?」

「え……?」

 確かに、以前課長が私の部屋で熱を出したときは、額と額をくっつけて熱を測った。

……けど。あの時、課長は、意識が朦朧としていたはず。

 熱が下がった後も、熱に浮かされている間の記憶は曖昧だったと言ってたから、すっかり安心していたのに。

 もしかして、全部、覚えてる……の?

 今まで、そんなそぶりなんて、微塵もみせなかったのに。

『あんなことやこんなこと』がリアルな感触付動画で脳内再生されて、一気に顔が熱くなる。

 チラリと上目づかいで伺い見れば、課長は、ニコニコ笑顔で私が額で熱を測りに行くのを待っている。