――七年前の結婚……って、真理ちゃんのお母さんとの結婚のことだよね?
そういわれれば、そのことについてはほとんど触れなかったな、あの蛇親父。
「これは友人としての僕のアドバイスです。結婚の事も含めて、君は君自身の言葉で、高橋さんにすべてを説明する責任があると僕は思いますよ」
落ちる沈黙が語るのは、苦悩の深さ。答える代わりに、課長は長い溜息を吐いた。
「最後になりましたが、高橋さん――」
「はい?」
「僕の友人を、好きでいてくれてありがとう。できれば、今後ともどうぞよろしくお願いします」
一連の私の行動が何を原動力にしているのか見透かしたように、風間さんは真顔で、そんなことをさらりと言ってのける。
課長は何か言いたげに口を開きかけたけど、結局何も言わずに渋面を作ってそっぽを向いてしまった。
――ず、ずるい、課長。
私は、どう答えたらいいんですか?
こんなときこそ、何か言ってくれなくちゃでしょう?
「あ、あの、えーと……」
『イエス』と答えれば、事実上の愛の告白になってしまうし。
でも、だからと言って、『ノー』とは答えたくない複雑怪奇な女心。
――ああ、もう、うまい言葉が浮かばない。
「ええーと、こちらこそ、よろしくお願いします?」
迷った末に口から飛び出したのは、オウム返しのそんな言葉。それも、なぜか疑問形。
――芸がなさすぎだろう、私。
ヒクリと、頬の筋肉が引きつりあがる。そんな私の反応に、風間さんはプっと噴き出して破顔した。