――げげげ。
いったい、いつから居たの風間さん!?
って、最初からだよね?
課長に抱き着いてしまった自分の痴態を見られた恥ずかしさで、思わず顔に血が上る。
――課長~、知っていたなら早く教えてくださいよ、もうー。
恨みがましい目でチラリと視線を送れば、課長はかなり不機嫌そうに眉間に縦ジワを刻んでいる。
「風間。用があるなら、さっさとすませて帰れ」
「はいはい。そんなに怖い顔をしなくても、お邪魔虫はすぐに消えますよ」
不機嫌丸出しの課長に対して風間さんは意に介する様子もなく、ニコニコ笑顔で歩み寄ってくる。
「言っておくが、俺はかなり怒っているんだからな」
「知ってますよ。君は、彼女のことになると見境がなくなりますからね」
「……うるさい。俺への報告が遅れた件については、後日、じっくりと納得のいく説明を聞かせてもらうぞ」
「了解、ボス」
風間さんは、ムスッと腕を組んで睨んでいる課長に、おどけたように笑いながら警官みたいに敬礼をして見せる。
幼いころからの友人だという名探偵さんには、課長の鋭い眼力も効力をもたないみたいだ。
「今日は、高橋さんへの謝罪とお礼をさせてもらって、しがない雇われ探偵は、大人しく引き上げますよ」
――私への、謝罪とお礼?
危ない所を助けてもらったのは私の方なのに。
どうして、風間さんが私に謝罪とお礼?
わけが分からず小首をかしげていると、風間さんは、ピッと右手の人差し指を立てた。
「ひとつ。高橋さんのハンドバックに、無断で盗聴器を仕掛けました。すみません」
「あ、はい」
それは、別にかまわない。
というか、おかげで助かったのだから、むしろ『よくぞ仕掛けてくれて、ありがとう』なんだけど。
湧いてくるのは、素朴な疑問。
「……でも、いつ? どうやって?」
「ホテルのフロントで、ぶつかってきた人がいたでしょう? あれ、僕です」
「え……? あの、ハンチング帽子の、おじいさんですか?」
「はい、正解」