「確かに、高橋さんのボディーガードの依頼主は谷田部東悟くんですが、実は、あなたの身辺調査に関しては、もう一人、別に大口の依頼主がいるんです」
淡々とした言葉には大きな破壊力があった。蛇親父の顔から、さっと余裕の笑みが消える。
「大口の依頼主……?」
困惑気に呟きを落とす蛇親父に、風間さんの『淡々攻撃』は、尚も続く。
「そう。『大口』のね。それは、あなたがよく知っている人物です。この録音データは警察ではなく、その人に渡ってこそ意味があるものなんですよ」
息を飲む気配。蛇親父は、自分の想像が信じられないように呟きを落とす。
「……まさか、叔父貴……なのか?」
「はい、ご明察。大口の依頼主はあなたの叔父上、YATABEグループ現代表・谷田部総次郎氏です」
見事答えを的中させた蛇親父にパチパチパチと拍手を送り、風間さんは、にっこりと会心の笑みを浮かべる。
「いくらで請け負ったのか知らないが、その金額の倍を出そう。録音データを売ってくれ」
焦ったように早口でまくし立てる蛇親父に、風間さんは、やや声を低めてピシャリと言い渡す。
「お断りです」
「3倍、いや、5倍でもいい」
「あなたは、色々と、やりすぎたんですよ」
落とされた小さな溜息は、風間さんのもの。