――ああ、なんだか疲れたなぁ……。
身体の内側にわだかまっていた恐怖の残滓とともに、ふうっと、大きく息を吐きだす。
――谷田部課長、来てくれるんだ。
きっと、怒るだろうなぁ……。
……ちょっと、怖いかも。
あ、美加ちゃん、もしかしたら、会社で待っててくれているかも。
ああ、もうだめ。
眠い……。
取り留めもない思考が、ゆるゆると浮かんでは消える。安心したせいか、意識がすうっと眠りの底に引き込まれていく。
恐怖心はない。
だだ、心地よい眠りに落ちる寸前のような倦怠感に包まれながら、夢と現実の狭間を、うつらうつらしていたのだと思う。
私は風間さんと蛇親父の会話の様子を、ぼんやりとした意識の下でみつめていた。
「どうせ、東悟あたりに雇われたのだろうが、とんだ勇み足だったようだな」
本気でそう思っているのだろう、蛇親父の声には余裕の響きが聞いて取れる。
風間さんは、脈をとっていた私の手首をそっと放して立ち上がった。
ヒョロリとした痩躯は、その存在感に反してやや頼りなげだ。
彼は、少し困ったような笑みを浮かべると、ポリポリと右手の人差し指でこめかみを掻きながら静かに口を開いた。