「おや。いろいろと、法律には詳しいようですね」

「それくらい、常識だろう」

「非常識な人が語る常識というのも、なかなか笑えるものがありますね」 

「興信所だか何だかしらないが、警察が来て逮捕されるのは、むしろ貴様の方だろう」

「それは心配しなくても、もうすぐ、わかりますよ」

 高圧的な男の脅しとも取れる言葉にも臆する様子はなく、鼻先で笑ってさらりとかわし、
「あ、一応、ご忠告。ちなみに今も録音継続中ですので、少し口を慎んだ方が身のためですよ」と、倍の反撃でその口を封じてしまった。

 風間さんは私をソファーに横たえると、真剣な面持ちで手首の脈を取って、にこりと人好きのする柔和そうな笑顔を向けてくれる。

「すぐに東悟くんも来ますから。そうしたら病院で診てもらいましょうね」

「……」

 まだうまく声が出ない私は、答えの代わりに小さくうなずき返す。

――なんだろう、この絶対的な安心感。

 上背はあるけれど、けっして筋骨隆々とか言うわけではなく、どちらかというと痩せぎすでヒョロリとした体形をしていて、特徴と言えるのは、ひょうきんな丸メガネの奥のつぶらな瞳くらいで。

 漂うのは、のほほんとした優しい大型の草食獣、例えばキリンのような、そんなイメージ。

 その風貌も、どこにでもいるごく普通のサラリーマンという感じなのに。

 この人にまかせておけば大丈夫。

 そう思わせる、何かがある。

 もしかしたらこの人は、私が思っているよりも凄い人なのかもしれない。