声の出所を辿っていた男が手に取ったのは、床に転がっていた、私のハンドバック。

 乱暴に金具を外して、中身を床にぶちまける。

 すかさず定期券サイズの黒い箱を手に取り指先でクルクルと回して、茫然としたようすで呟きを落とした。

「盗聴器……か?」

――盗聴器……?

 どうして、そんなものが私のハンドバックに?

 盗聴器なんて物騒なモノを持ち歩く危ない趣味は持ち合わせていない。

 考えられるのは、私の知らないうちに、『誰か』がハンドバックに入れた可能性。

 いったい、誰が?

 何か、見落としている気がする。

 でも、ノロノロと亀並にしか回らない思考では、答えにたどりつかない。

『ご名答。最新式の送受信機能付き高性能盗聴器ですよ』

 出来の悪い生徒を褒めたたえる教師のように、喜色満面な声が男の手にする黒い箱から流れ出す。

『ちなみに、あなた方の会話はすべて録音済みですので、あしからず』

 悪びれない、ひょうひょうとした言い回しが癇に障ったのか、男は『チッ』と低い舌打ちを鳴らして唸るように声を絞り出す。

「……貴様、何者だ?」

『そんなの、決まっているでしょう――』

 ガチャリと、ドアを開けて部屋に入って来たその人は、どこかチェシャ猫めいた笑みを浮かべて、愉快気に言い放った。

「正義の味方ですよ」