「……と、もう効いてきたのか。空きっ腹にワインの相乗効果か。あまり効きすぎると、つまらないんだが。仕方がないな」

 私を抱きかかえながら、蛇が、勝ち誇ったようにほくそ笑んでいる。

 押し退けようとする両腕に、力が入らない。

――ああ、ダメだ。これ以上、抗えない。

 震えるまぶたが静かに下りていく、まさに、その時だった。

――ブルル、ブルルと、低いスマートフォンの電話の着信を知らせる振動音が、どこかで聞こえた。

 否、振動を感じた。

 ベストのポケットに入れてある、スマートフォンに着信している。

――課……長?

 眠りに引きずりこまれる寸前の思考の片隅で、その相手が課長だと確信する。

――でなきゃ。

 でて、助けを求めなきゃ……。

 最後の気力を振りしぼってそう思うけど、悲しいかな、しびれた腕がうまく上がらない。

 代わりに伸びてきた武骨な手が、ベストの中のスマートフォンを取り出した。

「……ふん。あいつか」

 プチリと、受信ボタンを押して、最後の頼みの綱を取り上げた敵は、上機嫌で会話を始めた。

「何の用だ? あいにく、彼女は取り込み中で出られないから、私が用件を聞こうか?」

「う……」

 ダメだ。

 声を上げようとするけど、音声にならない。