――ぜったい、飲んだらだめだ。
飲み込むまいと必死に喉の奥をしめるけれど、更に流し込まれる大量のワインにむせた拍子に食道へゴロリと流れ落ちてしまった。
「な、何をっ……」
ゲホゲホと激しくせき込み、言葉が続かない。
「何、私が使っている、ただの睡眠導入剤だ。少しばかり、大人しくしてもらうだけだ。効き初めに多少酩酊状態になるが、1、2時間もすれば元に戻るから、心配することはない」
――睡眠導入剤!?
酩酊って、酔っ払い状態ってこと?
なんでそんなモノを、胸ポケットに常備!?
ってか、自分の薬を他人に飲ませるな、変態っ!
「放し……て……?」
――な……に、これ?
いくらなんでも、今飲みこんだばかりの薬がもう効いてくるなんてありえない。
でも、手足に走るのは、まぎれもなく違和感。
それは、しびれたような、少し感覚が鈍くなったような不快感だ。
例えるなら、眠りに落ちる間際の倦怠感に似ている。
刻一刻と強くなっていくその感覚とともに、心が絶望の色に染まっていく。
「この薬に使っているカプセルは、谷田部製薬で開発中の新製法でね。唾液で溶けずに胃液で瞬時に溶解する。だから、飲んですぐに薬効が現れる、優れものなんだ」
耳元に落とされる声が、遠く近くにこだまする。
立っていられずに、膝がガクリと下に落ちてしまう。