――運動神経、なさすぎだろう、私。
かなりへこみながらも気力を奮い立たせ、『逃さないぞ』、という気持ち満々にしっかり腰に回された右腕を両手で外しにかかる。
「ったく、手間をかけさせてくれる」
敵は唸るように吐き捨てた後、空いた左手で自分の胸ポケットをまさぐると、小さな白いカプセル状のものを取り出し口に含み、テーブルの上に手を伸ばしたかと思ったらワインボトルをひっつかんでラッパ飲みしはじめた。
――何? ヤケ酒?
あまりの奇行に、思わず動きが止まった。
次の瞬間、あごを掴まれて強引に上向かせられる。
「なに……っ……んん!?」
抗議の言葉は、私の唇から飛び出す寸前に敵のそれで塞がれてしまった。
口腔から喉へ、更に食道へ。
意思に反して強引に、かつ大量に流し込まれるワインに、激しくむせかえる。
口からあふれ出したワインが、喉を伝い、胸元を濡らしていく。
口腔を満たすワインの中に、明らかに異質な硬い小さな固形の感触が交じり、ぎょっと目を見開いた。
――さっきの、カプセルだ!
どう見ても、怪しげな薬が入っていそうな、白いカプセル。
あれは自分が飲むためじゃなく、私に飲ませるため?
ぞぞっと、背筋に戦慄が走る。