――このっ!

 抑え込まれていた右手をどうにか引き抜き、力任せに相手めがけて振りきった。

 バシン――

「っ……!?」

 上がる、胸のすくような打撃音と小さなうめき声。

 視界がぼやけているから確認はできないけど、たぶん横っツラに当たったはず。

 手のひらに、何かを叩く感触とほぼ同時に金属が引っかかったような感触があった。

 もしかしたら、メガネもはじき飛ばしたかもしれない。

「ちっ……」

 低い舌打ちとともに身体の拘束がわずかに緩んだ。

 この瞬間を見逃さず、両腕に全霊の力を込めて押し退ける。

 広がった空間を更に広げようと、膝をバタバタど蹴り上げたその瞬間。

「うっ……」

 うめき声とともに、敵の動きが止まった。

……どこぞの急所にも、クリーンヒットしたらしい。

 千載一遇の、まぐれ当たり。

――今だ!

 さらに広がった隙間に体をねじ込むように回転させ、ソファーとテーブルの間の床に転げ落ちる。

 ゴヅン、と肘と膝をしたたかに打ち付け、じーーんと、脳天に痛みが突き抜けた。

 が、痛みに浸っている暇はない。

 そのまま、赤ん坊がハイハイするように広い空間へ這い出た。後は、永年の友の救出あるのみ。

「メ、メガネ、どこ!?」