「言っておきますが、何をしても、私はあなたの思い通りには動きませんから」
「別にかまわないさ。君が動かずとも、あいつが動くだろうから」
「な……?」
「惚れた女が辱めを受けたなどと、あいつは死んでも絶対公表できまい。恐らく、どんな条件でものむはずだ」
――そんな、バカなこと、あるわけない。
私は、ただ、あの人のために何かしたくて。
少しでもいいから、力になりたくて。
なのに。
「例えば、谷田部の後継者の座から、自ら退く――とかね」
――ああ……。
自分の推理の正しさを知ったところで、喜びなど欠片も湧くわけもなく。こみ上げる悔しさと不甲斐無さで、涙がにじんだ。
でも泣くものか。
絶対、泣いたりしない。
――隙を見て逃げてやる。
あの人の足かせにだけは、なりたくない。
力で敵わないなら、知恵を回せ、梓。
ギリギリのところで自分を叱咤して、私は全身の力を抜いた。
それこそ頭の天辺から足の先まで。ガクリと、膝が下に落ちる。
「おおっと、危ない」
そのまま、私を放り出すなり諸共倒れるなりしてくれればいいものを。
「ケガなどされたら、こちらに不利だからね。気を付けてくれよ」
クスクスクスと私の魂胆など見透かしたように笑いながら、期待に反して敵は、私を抱き込んで軽々と抱え上げた。
いわゆる『姫だっこ』状態だ。