「こちらは、合意の上だと主張するだけだ。だってそうだろう?」

「なっ……?」

「ひとつ、君は、自分からリムジンに乗り込んだ」

「……っ」

 痛い所を突かれて、反論できない。

「ふたつ、君は、自分からホテルのペントハウスに訪れた」

「……」

「みっつ、私が強制したのではなく、すべて君の自由意思でここにいる。それに……」

 まるで社交ダンスをしているようにクルクルと体ごと回され、爪先立った足がたたらを踏む。

 ゆらゆらと体が揺さぶられ、触れるか触れないか耳元ギリギリに寄せられた唇から、クスクスと愉快気な笑い声が漏れおちた。

「君の会社の玄関フロアで、見ていた野次馬女子社員たち。このホテルの受付。ああそれと、フロントで君とぶつかった老人。全員が証言してくれるだろう」

 熱を帯びた息がかかるおぞましさに、思わず、ギュッと目をつぶる。

「君が、自分の意志で、ここに来たことをね」

――やられた。

 この男、最初から『このつもり』で行動してたんだ。

 それを予想すらできなかった私が間抜けなんだ。

 どんなに後悔しても後悔は先に立たず。蛇に睨まれたカエルの運命は、もはや風前の(ともしび)

 だけど。

 最後まで、あきらめるものか。

 ここであきらめたら、それこそ、私の女がすたる。