顔を睨んでやろうと後ろにのけぞっても、その動きに、相手がぴたりと付いてくる。
だから結局、抱きすくめられた状態のまま、二人の距離は変わらない。
ハタから見たら、親密なダンスを踊る恋人どうしに見えるに違いない。
なんて醜悪で、なんて滑稽。
その絵面がまざまざと脳裏に浮かび、悔しさでギュッと唇をかむ。
――落ち着け、落ち着くんだ。
パニックになったら、相手の思うツボだ。
そう必死で自分に言い聞かせ、冷静になろうと努力はするけど、テンパった脳細胞が司令塔ではあまり成果は上がらない。
「こんなことをして、ただですむと思って、……いるんですかっ」
発する言葉も、感情ばかりが先走り、語尾が震えて迫力に欠けることこの上ない。
「さあ、どうだろうね。試してみないと、なんともいえないな」
必死で上げた声に、微動だにしない男は自信ありげに私の耳元でほくそ笑む。
「これはセクハラです、立派な犯罪です。警察につかまりますよ、いいんですか? 天下の谷田部グループの顔に、泥をぬっちゃいますよっ」
お金で全てが思い通りになると信じている男に言っても無駄だと知りつつ、正論をまくし立てる。