じっと、テーブルの上に放り投げられた紙片を睨みながら、そんな埒もない考えが頭をよぎった。
が、さすがに実行には移さない。
蛇を本気で怒らせては、こっちの身が危ない。
一つ、大きく深呼吸。
腹の底でわだかまる怒気を息と一緒に吐き出して、ソファーから腰を上げる。
「申し訳ありませんが、私では、お役に立てそうもありませんので……」
たぶん、二度と会うことはない。会いたくはないと、心でごちり。
「これで失礼させていただきます。お水、ごちそうさまでした」
別れの挨拶も完璧。
笑顔でペコリと会釈をして、さあとっとと、退散。
くるりと踵を返したところで、ガクンと体が斜め後ろに傾いだ。
――え……?
けつまずいたのなら、前に倒れるはずだけど、どうして後ろ?
と思う間もなく、バランスを崩した体は、重力にひかれてそのまま斜め後ろに倒れこむ。
――ええっ!?
フワリと、一瞬、宙に投げ出される感覚に全身が総毛だつ。
オフホワイトの大理石調の床は、とても硬そうだった。
あれに、この勢いで後頭部から倒れこんだら大惨事間違いなしだ。
事故にあうときって、スローモーションに見えるって聞いたことがあるけど、これがそうか。
なんて、考えている余裕はないはずなのに、妙にゆっくりと思考が回る。
「本当に、予想外な女だな、君は」
耳元に落とされた低いささやきで、はっと我に返った。