『世の中は、お金しだいですべてどうにでもなる』

 そう、本気で考えているとしたら、とんだ勘違い野郎だ。

 お金では、動かせないものだってある。

「そちらも、お断りします」

 微笑み付きで答えれば、私の拒絶の言葉など耳に届かないかのように、彼はソファーの背面にかけてあった背広の胸ポケットから、何か白い紙片を取り出しテーブルの上に放り投げた。

 お札よりも縦長で、少し大きいサイズの見慣れない紙片に視線を落とすと、それは、小切手と言われるものだった。

 サイン済みのその小切手には、金額が書かれていない。

「これに、好きな金額を書きなさい」

「は……?」

「小切手だ。見たことがないのかね?」

 しがない図面描きOLの私には、実生活では縁が無い代物だけど、知識としては知っている。

 小切手を見たことがあるか、ないか。

 問題は、そんなことじゃない。

――なんだ、これ?

 これに、好きな金額を、書けって?

 それを全部、アナタにあげますって?

「はあ……」

 思わず、長ーーい、溜息がもれた。

 だめだ、これは。

「百万でも、一千万でも、好きな金額を書いていいんだ」

 いや、この溜息は、そういう理由ではないんですが。

「……」

 いっそ、この空白のスペースにどれだけゼロが並べられるかチャレンジしてみようか?

 図面描きの緻密なペンさばきを、なめるなよ?

 うーーん。

 うん、二十桁は、いける。