なんとなく、おぼろげだけど、この人の目的が分かった気がする。

 恐らく、この人は課長を谷田部の後継から退かせたいんだ。

だから怪しげな連中にスキャンダルを捏造(ねつぞう)するような写真を撮らせ、こうして元カノである私にヨリを戻せと甘言(かんげん)(ろう)している。

 もしも婚約が解消されて結婚が破談になれば、谷田部グループのトップである養父・谷田部総次郎氏の不興を買い、課長の立場は悪くなるだろう。

 そこに、この人が、割り込む余地が生まれる――。

 たぶん、そういうこと。

――なんだ。

 どんな冷徹な人間なのかと思ったら、欲の皮が突っ張らかった、ただのオジサンじゃないか。

 そう思ったとたんに、がちがちに固まっていた頬の筋肉が、へにゃりと緩む。

 たぶん、私の推理は、そう大きく外れてはいないはず。

 幽霊は怖いけど、枯れ尾花(おばな)は怖くない。

 目的が分かってしまえば、対処のしようがあるってものだ。

「せっかくのお心遣いですが、その件は、お断りさせていただきます」

 ニッコリと復活した笑顔で答えれば、目の前の御仁は、心底意外そうに目を見張った。

――おどろけおどろけ。

 カエルだって、蛇に睨まれるばかりじゃないんだから。

「なぜ? と、聞いてもかまわないかな?」

「それは、プライベートなことなので……」

――言わないよ。

『あっかんべー!』と、心で舌をだし、ニコニコ営業スマイル全開で答えれば、敵さんは私の真意を測るように目を眇めた。