あれほど知りたかった、別れの理由。
でも、こんな形で、知りたくはなかった。
どうして私は、こんな大切なことを、あの人以外の口から聞いているのだろう?
私は、膝の上に置いた両手を、力いっぱいギュッと握りしめた。
こうでもしないと、口から負の感情があふれてしまいそうだから。
――ひどい。
聞きたくないと、はっきり言ったのに。
こんなことをして、何が楽しいの?
衝撃の余波をおしのけて、心の奥底からフツフツとわき上ってくるこの感情は、怒りだ。
「――捨てる神あれば拾う神あり。あいつにとって幸運だったのは、叔父夫婦に跡取りがいなかったことだな」
私は、尚も楽しげに話しを続ける目の前の人物に、まっすぐ怒りの眼差しを向けた。
でも彼は、まったく動じない。
「さすがに、叔父も、事の成り行きに気が咎めたのもあるのだろうが、一番の要因は、叔母が強く東悟を跡取りにすることを希望したからだそうだ」
あの人の苗字が、榊から、谷田部に変わった経緯――。
「父親の残した負債の肩代わりと、今後かかってくる母親の医療費の負担。その代わりにと、叔父が東悟に出した条件は、叔父、谷田部総次郎の後継として必要な才覚と知識を養うこと――」
父親の残した、莫大な負債を清算するため、
母親の命を明日に繋ぐため、
提示された条件――。
「そして、もう一つ。ゆくゆくは、叔父が決めた女性と結婚し、谷田部の後継を生し育てること」
飲まざるをえなかっただろう、決められた未来――。
どんなに知りたくても知りえなかった、あの人の過去をすべて語り終えると、まるで勝利の美酒に酔いしれる独裁者のように、彼は不敵な笑みを浮かべて言った。
「分かってやってくれるか。好き好んで君と別れたわけじゃない。あいつは、泣く泣く君を手放したということを」
「……」