なによ。

 なにか、言いなさいよ、この薄情男!

 今まで聞きたくても聞けないでいた、あの時の失踪理由。

 とっくりと、聞いてやろうじゃないの。

 あの後、私がどんな思いであなたを捜したか。

 理由さえ言ってくれれば、思い切れたかも知れないのに。

 それさえもなく姿を消すとは、なんて悪行三昧。

 この、人でなしっ!

 この際だから、一切合切ぶちまけてやるうっ!

 と力いっぱい睨み付けていたら、あまりに変な力が入ったのが原因か、急に鳩尾(みぞおち)の辺りから酸っぱいモノが込み上げてきた。

「うっぷ……」

 ヤバイ……吐きそうっ。

 べ、便器プリーズ!!

 いくら酔っぱらっていても『洗面台で吐くわけにゃいかない』と妙な理性が働き、口を両手で押さえてトイレに行こうとするけど、体が思うように動かない。

 一歩、足を踏み出した所で、ぐるんと世界が一回転した。

 首筋の辺りから、すぅっと一気に血の気が引いていく。

 ああ、もうダメかも。

 ここで床に頭を打ち付けて、ゲロにまみれて死ぬんだわ、きっと。

 高橋梓、享年二十八歳。

 新任課長の歓迎会にて、事故死。

 そう、朦朧とした意識の下で、覚悟した。

 なのに。

 いつになっても、頭の痛みも、冷たい床の感触も伝わってこない。

 あれ?

 もう、既にあの世行き?

 それにしては、フワフワと心地が良い。

 そうか、これが天国というヤツかも……。

「やだ、梓センパイどうしたんですか!?」

 あれ、美加ちゃんの声がする。

 ゴメンね。

 美加ちゃんが幹事の歓迎会で、迷惑かけてゴメンね。