うちの会社の社長と課長との間に漂う微妙な空気を感じて、個人的な知り合いなのか尋ねたときだ。
あの時、課長は『妾腹の息子なんだ』と真面目腐った表情で言った。
すぐに、冗談だと、ただの父親の知り合いだと笑って否定していたけど。
――この人の叔父さんの兄弟の話なら、課長とは年代が違うから、ぜんぜん関係ない話よね?
「この異母弟は一族の恩恵を受けることなく、自分の才覚で事業を――とは言っても、従業員が数十名ほどの小さな町工場、いわゆる下町の鉄工所の経営者になったんだが、経営に行き詰ってね」
「はあ……」
『鉄工所』というお馴染みのワードに親近感がわいたけど、いまいち話の流れに付いていけず、小首を傾げる。
いったい、この話のどこに、私との関連性があるのだろう?
さっぱり分からない。
「――銀行、ノンバンク、果ては性質の悪い悪徳金融にも手を出して、抜き差しならない状況に陥り、ついには、最後の手段を選択した」
『性質の悪い悪徳金融』
『最後の手段』
他人事ながら、続々飛び出す不穏極まりないワードの数々に、思わず眉根を寄せる。
坂道を転がり落ちる石ころのように、不幸というものは、質量を増やしながら加速していくものなのかもしれない。
「つまり、絶縁状態にあった谷田部の本家、当主におさまっていた異母兄である総次郎に、援助を乞うたわけだ。――で、どうなったと思う?」
「……え?」
いきなり話を振られ、どぎまぎしてしまう。
異母弟、それも絶縁状態にある妾腹の弟からの、援助の依頼。
つまりは、借金の申し込み。
総次郎さんがどういう性格の人なのかは分からないけど、妾腹うんねんを割り引いでも、ふだん付き合いのない親戚からの多額の借金の申し込みと考えたら、はたして快く応じるだろうか……。