お金で、人の価値が決まるとは思わない。

 でもやっぱり、住む世界が違いすぎると、そう思ってしまう。

「……高橋さん?」

「え、あ……」

――なんだっけ?

 何か、質問されてた気がするけど。

「はい?」

 小首を傾げて十五度。

 かなり、間抜けな顔をしていたに違いない。

 ククッっと、喉の奥を鳴らしたかと思えば、彼はそのままこらえ切れないように笑い出した。

「君は、実に面白い女だな。仕事ができるキャリア・ウーマンなのかと思えば、まるで、十代の少女のような、素直な反応をしてみせる」

 よほど、ドストライクで笑いのツボに入ったらしい。

 言葉の端々が、笑いの余波で震えている。

――しまった。

 つい、素が出てしまった。

――えーーと。

「ヤタベグループなら、知っています、はい」

 なるべく表情に気持ちが出ないように気を付けて、聞かれたことにだけ端的に答えれば、

「良かった。それは、話が早い」と含み笑いで皮肉が飛んでくる。

――くやしい。

 なんだか、心の中をぜんぶ見透かされている気分だ。

 まるで、その手のひらの中でゆらゆらと揺らされ、後は飲み下されるのを待っているだけの、ワイングラスの中味みたいに。

 コクリ、と、また一口ワインを美味しそうに口に含み、彼は話しの続きを始めた。

「叔父、谷田部総次郎には、亡くなった兄の他に四人の妹と一人の弟がいてね、その弟というのが妾腹(しょうふく)だった」

――妾腹?

 お(めかけ)さんの子供の、妾腹?

 そういえば、以前、課長にからかわれたことがあったっけ。