ヤタベグループなら、もちろん知っている。

 創業は江戸時代にまでさかのぼるという建築会社の最大手。

 所謂スーパーゼネコンと呼ばれる大企業で、現在は建築関連の他に、不動産、リゾートホテル、製薬会社などさまざまな分野の傘下企業を有している。

 日本を代表する総合的な企業グループ、それがヤタベグループだ。

 確か、以前清栄建設のパーティーがあったホテルロイヤルやこのホテルも、ヤタベグループの傘下じゃなかったっけ?

……あれ?

『傘下企業』ってワード、最近聞いた気がする。

 ああ、あの時だ。

 一か月半前に、谷田部課長の部屋で、課長と探偵さんの会話に出てきたワードだ。

――んん?

 待って。

 ヤタベグループ?

 ヤタベ=谷田部。

 って、……え?

 谷田部って、……『その谷田部』なの?

 あの日本を代表する、というか、世界に羽ばたいちゃってる、大企業グル―プの『YATABE』?

 それじゃ、課長も、この人もその一族っていうこと?

 うそ……でしょう?

「……」

 人は、本当に驚いた時には、声が出なくなるらしい。

 確かに、こんな高級ホテルのペントハウスに住んでいて、リムジンなんかで乗り付けて、お金持ちなんだろうとは思っていたけど。

 それは、例えば親がどこぞの会社の社長とか資産家とか、あくまで普通のお金持ちを想像していたのであって。

 まさか、そんな桁外れなお金持ちだなんて想像できるわけがない。

 下手をしたら、世界のお金持ちランキングとかにも入っていたりするのかも。

――ああ、なんだか……。

 驚きの後にこみ上げてきたのは、諦めにも似た寂しさ。

――なんだか、遠いな。

 ますます、課長と自分の距離がグーンと離れてしまった気がする。