「……聞かされて、いません」

「なら、まずその辺から、説明しないといけないな」

「ま、待って下さい。それは……」

「聞きたくないと?」

――聞きたい。

 知りたい。

 今まで、知りたくても課長には聞けなかった、過去の出来事を。

 あの時、置き去りにされた恋心が、今も胸の奥底で泣いている。

 『どうして?』と、理由を欲して泣いている。

 でもそれは、この人の口から語られるべきものじゃないはずだ。

 だから私は、決意を込めて、ゆっくりとうなずいた。

「はい。聞きたくありません」

――少なくとも、あなたからは。

 しばしの間思案に暮れるように、トン、トン、トン――と、彼の長い指先がテーブルの上を小さくはじく。

 その音が止んで、数泊後。

「では、あいつのことではなく、私のことを話すとしようか。それなら、構わないだろう?」

 私の返事にはノーリアクションで、彼はそう言って、ニッコリと悪魔めいた笑みを浮かべた。

「……」

――そんなもの、聞きたくありません。

 とは、さすがに口に出せずに黙っていたら、それを了承と取ったのか、彼はニコニコと語り出した。

「私の叔父、私の死んだ父親の弟にあたる、谷田部総次郎(そうじろう)は、とあるグループ企業の社長でね。――君は、ヤタベグループを知っているかな?」

「……は?」

 いきなり始まった『私の叔父さん話』に付いていけずに、ハトに豆鉄砲状態で、目を瞬かせる。