彼は、手にしたワイングラスを口に運ぶと一口味わうように飲み下し、先刻と同じ質問を投げてきた。
「ではもう一度聞くが、九年前、東悟が泣く泣く別れた意中の彼女とは、君のことで間違いないね?」
今更隠し立てしても仕方がない。調べが付いているからこその質問だ。
「課長が、どういう気持ちだったかは私にはわかりませんが、九年前に別れたというのは、事実です」
私の答えが気に入ったのか彼は満足そうにうなずくと、テーブルの上の写真を一枚手に取り、ヒラヒラと振ってみせた。
言わずもがなの、『某ホテルのエレベーター内キスシーン盗撮写真』だ。
「で、九年ぶりに再会し、焼けぼっくいに火が付いた、と」
――どうして、話しを蒸し返すの?
それはさっき、酒の上での偶発事故だって言ったじゃない。
揺さぶりをかけて、私の答えがぶれるのを狙っているの?
「――違います」
「違うといわれても、こういうものを見せられると、まったく説得力はないんだが」
ヒラヒラと、目の前で振られる写真の動きを無言で目で追う。自分で盗撮させておきながら、『見せられる』もないものだ。
「違うものは、違うとしか言えません」
たいしてがっかりした様子もなく、彼は小さく肩をすくめた。
「意外と君は、見かけによらず頑迷な人だね」
かなり失礼な言われようだけど、事実だから反論の余地はない。
「では、次の質問に行こうか」