「それは、最後の楽しみに取っておくとして――、ひとつ確認しておきたいんだが、九年前、東悟が泣く泣く別れた意中の彼女とは、君のことだね?」
――え……?
一瞬、何のことを言われているのか、分からなかった。
『九年前、東悟が泣く泣く別れた意中の彼女』
――この人は、昔、課長と私が恋人関係だったことを知っている。
そして、別れたことも。
よく考えれば、この人は、課長の身内。
昔の事情を知っていても、不思議はない。
待って。
ということは、谷田部課長が――東悟があの時、どうして突然一方的な別れを告げ私の前から姿を消したのか、その理由も知っているってこと?
「……」
「答えないことが、答え……ということかな?」
この人は、すべて知っている。
過去、谷田部課長と私が付き合っていたことも別れた原因もその後の経緯も、そして、現在の二人の微妙な関係も。
たぶんすべて調べつくした上で、私に意地悪な質問をぶつけてその反応を見て楽しんでいる。
そんな気がした。
だったら、いちいち素直に驚いて楽しませてやる義務はない。
どんな目的があるのか知りたかったけど、やっぱり、私に探偵の真似ごとは無理だった。
この辺が、引き時だ。