「これは、事故です」
「事故?」
「はい。酒の上での、出合頭の衝突事故です。特に恋愛感情がどうのという問題じゃありません」
「出合頭……ね」
彼は、喉の奥で愉快そうにククッと笑って、質問を投げ付けてきた。
「別に、東悟でなくとも、誰でもよかったと?」
――ううっ。
なんて意地の悪い聞き方をするんだろう。
「接待の二次会で、二人とも、お客様にだいぶ飲まされてしまったので……、少し羽目を外しすぎました」
飯島さんごめんなさい。
この際、言いわけに使わせていただきます。
この時の二次会の席で二人きりになった時に、奇特にも、私に愛の告白なるものをしてくれた飯島さんに心で詫びて。
「この件は軽率だったと、私も充分に反省しています。ご不快な思いをさせてしまって、申し訳ありませんでした」
頭を下げて、一秒、二秒、三秒。
先に折れたのは、彼の方だった。
「いいから、頭をあげて。別に私は、この写真の件で君を責めるために、ここへ招待したのではないのでね」
――え? 違うの?
てっきり、『課長の婚約の邪魔をするな』と、釘をさされるのだとばかり思っていたのに。
「ほら、顔を上げて」
楽しくて仕方がない。
そんな声の響きに顔を上げれば、私を見やる、鋭い眼差しに視線が捕まった。
柔和そうに微笑んでいるのに、どうしても獲物を狙う蛇めいたこの目が、嫌だ。
好きになれない。
こんな所からは、さっさと、退散しよう。
もう、精神エネルギーを無駄に消費するだけの作り笑いは、製造中止。
目を見ると、睨まれたカエルみたいに固まってしまいそうだから、口元あたりに視線を固定して、ズバリと尋ねる。
「それでは、どんなご用件ですか?」