「あによ。二十八歳の大人の女を捕まえて、その言いぐさはないんじゃない? 私は、もう、アンタが知ってる、十八歳の女の子じゃないんらから!」
若干、ろれつの回らない言葉でそう言い放ち振り返る視線の先には、東悟の真っ直ぐな瞳。
谷田部課長じゃなく、大好きだった『東悟』の真っ直ぐな瞳。
そこには、社交辞令の笑顔は張り付いていない。
「大人ってのは、自分の酒量限度を知っている人間を指して言うモノだと思うね、俺は」
「……嫌いよ」
ああ、これはきっと、飲み過ぎたアルコールのせい。
じゃなきゃ、仮にも上司に対してこんなセリフは吐けやしない。
「知ってた? 私……、アンタなんて、大っ嫌いっ!」
今まで必死に押さえていた危うい理性という名の『タガ』は、いとも簡単にすっ飛んで、剥き出しの感情が口から溢れ出していく。
酷いことを言っている。そう言う自覚はあるけど、一度口から飛び出してしまった言葉は、もうどうしようもない。
たぶん、私は彼を怒らせたいんだ。
大人ぶった『谷田部課長』の仮面をはぎ取って、あの頃の東悟に戻って欲しい。
そう、心の何処かで思っている。
なのに東悟は、怒るでもなく、悲しむでもなく、ただ私を見詰めている。
くだを巻く私を、ただ真っ直ぐな眼差しを向けて見詰めている。