「なに美加ちゃん、また社内恋愛情報でも仕入れたの?」
この前の『耳より情報』は、総務の課長と新人の娘が会議室で良からぬ事に及んでいたという、まことしやかな噂だった。
まるで見てきたかのような、その実況中継さながらの描写の細かさは、有る意味職人芸だ。
「違いますよぉ。今度のは、もっと耳より情報なんですっ!」
ロッカーの内扉の鏡で入念にメイクのチェックをしながら、美加ちゃんは目を輝かせた。
「ほら、工務課の新任の課長、今日から出社でしょう?」
「ああ……、そう言えば、今日からだったね」
今まで課長のポストにあった木村さんが病気で長期入院になったため、急きょ決められた人事だった。
なんでも社長直々に系列会社から引き抜いて来た『有望株』らしい。
と言うのも、美加ちゃん情報なんだけど。
「たしか、谷田部って言ったっけ? その課長がどうしたの?」
私の質問に、待ってましたとばかりの美加ちゃんの瞳が『きらりん』と輝く。
「見たんですよ~、見ちゃったんですよ、課長の実物!」
「へぇ……」
形ばかりのメイクをチェックしながらの、私の気のない返事が気に入らなかったのか、美加ちゃんは、手入れの行き届いた綺麗な弓形の眉根をキュッとひそめた。
「へぇって、梓センパイってば、感動がないなぁもうっ!」
両手を腰にあててそう言うと、制服のベストに窮屈そうに収まった豊かな胸を反らしながら、『プン!』と頬を膨らます。