――やっぱり、『これ』が来たか。敵さんの、切り札登場だ。
私は、広がった写真の束を手に取り、トントンとテーブルの上で角を揃える。
大丈夫、これも、想定内。
落ち着け、私。
手にした写真を一枚一枚めくり、テーブルに置きながら、確認していく。
『課長の歓迎会の夜』
『歓迎会の翌朝』
『高級ブティックでドレス購入』
その他、エトセトラ。
どれもこれも、私と課長が親密そうに寄り添い、あたかも恋人同士のように写された写真の数々。
写真はどれも、以前、谷田部課長から見せてもらったものばかりで、目新しいものは含まれていなかった。
中でも、真打ち。
スクープ写真第一位は、やはり『某ホテルのエレベーター内写真』だ。
「……一枚一枚、写真を撮られた時の状況を、説明しますか?」
笑いを消した至極まじめな表情で尋ねれば、彼は、私を観察するよう、じっと見つめた後。
「いや。これだけでいい」
と、テーブルに置いた写真の中から、一枚を、長い指先ではじき出した。
もちろんそれは、スクープ写真第一位の『某ホテルのエレベーター内写真』だ。
他の写真は、見ようによってはどうにでも取れる写真ばかりだけど、これだけは違う。見たまんま。事実じゃありません、と言っても誰も信じないだろう。
間違いなく、『課長と私のキスシーン』が、ばっちり撮られているのだから。
写ってしまったものを、どう否定しても始まらない。
ここは事実は事実と認めた上で、突っぱねるしかない。
『大人の事情』という、理論武装で。