どうにか本題に話の流れを持って行けないものか考えあぐねていたら、敵さんが戦端を開いてくれた。
「君は、結婚を考えていないのかな?」
またまた放たれた脈絡のないセクハラ発言に、頬の筋肉がヒクりと引きつる。
「今のところ、特に予定はないですが?」
何が言いたいんだ、この人。
もしかして、ただ単に、暇つぶしにからかわれてるだけとか、ないでしょうね?
「質問の仕方が悪かったな」
フッと鼻先で笑った後、彼は、手にしていたワイングラスをテーブルに置くと、両腕を組んで私を見据えた。
「君は、東悟との結婚を、考えていないのかな?」
感情が読めない低い声音に、ドキリと、鼓動が大きく跳ね上がる。
質問に対する驚きではなく、まして、恐怖でもない。
――来た来た来た!
やっと来ました、本題、メインディッシュ。
予想を外さない想定内の質問に、がぜん、対戦モードが高まっていく。
「あの、何か誤解なさっておられるようですが、私と課長は、別になんでもないですよ」
言いたかったことをやっと主張できて、思わず、にっこり安堵の笑みがこぼれる。
「なんでもない、ね……」
ふうん、と、うろんげに半眼にした眼差しで私を眺めると彼は、組んだ腕をほどき傍らに置いてあったA4版ほどの大きさの茶封筒を、無造作にテーブルの上に放り投げた。
パサリ、と封筒の口から飛び出し広がったのは、見覚えのある写真の束。
「では、これがどういうことか、説明してもらえるかな?」