――大丈夫。大丈夫よ。
だって、たとえ、あの盗撮写真を撮らせたのが彼だとしても、その目的が予想不能だとしても、だからと言って、まさか私をどうこうしようとは思わないはず。
それにそもそも、大前提が私の大きな勘違い――って線も、なきにしもあらず、だし。
まあ、そうなれば、笑い話ですむことだし。
一応、課長の『もし、この写真に関連して、なんらかの接触があったら、すぐ、俺に教えてくれ』っていう約束も守ったし。
――うん、大丈夫。
息を整えながら、内心の動揺を悟られないように。
「お待たせして、すみません」
私は、彼の待つ応接セットの所までゆっくりと歩みより、どうにか笑顔を浮かべることに成功した。
一方彼は、きっちり着込んでいた背広の上着を脱ぎ、自分が座るソファの背もたれにかけ、ネクタイも外して、すっかりくつろぎモードに突入していた。
なんとその手には、ワイングラスまで持っている。
グラスの中には、赤ワイン。
「この銘柄は、なかなかいけるんだ。君もどう?」
――と満面の笑顔で言われても。
「……すみません。この後、会社に戻らないといけないので」
「ああ、そうだったね。じゃあ、何か飲み物を、持ってこさせよう。何がいいかな?」
「お気づかいなく」
――それよりも、早く、本題に入ってください。
私は、とっとと、仕事に戻りたいんです。
ヒクヒクと、早くも、顔に張り付けた笑顔の仮面がひきつってしまう。