部屋の第一印象は、『モノトーン』だった。
ひたすら広くてゴージャス&リッチな居住空間なのは課長の部屋と共通した所だけど、木の温もりあふれる課長の部屋に対して、こちらはモダンで機能美あふれる印象だ。
部屋の間取りもシンメトリーになっているらしく、初めて来た場所なのにそんな気がしない。
西側全面に取られた開口部には、ライト・グレーのカーテンに覆われたオーダーメイド・サイズの大きな掃き出し窓。
カーテンの隙間から覗くのは、ライトアップされている広いベランダスペース。
階下には、夜のとばりに包まれた、イルミネーションきらめく夜の街並が広がっている。
課長の部屋にお邪魔した時は、どれをとっても溜息が出そうなくらいなゴージャス&リッチな居住空間に、ひたすら感心するばかりだったけど、ここにいると薄ら寒く感じるのはどうしてだろう?
――その理由は、考えるまでもなく明らかだ。
部屋の左手奥がキッチンスペースと、それに付随するダイニングスペース。
十人は楽に食事がとれそうなダイニング・テーブルには、ステーキをメインにした豪華な食事が用意されていた。
銘柄はよくわからないけど、高そうなワインセットも。
まだ料理から美味しそうな湯気が上がっているところを見ると、客が到着するタイミングを見計らって、用意されたものだろう。
幼いころはよく田舎の母に『食べ物を粗末にすると、もったいないオバケがでるわよ~』と言われたものだ。
でもものすごーく気がひけるけど、今は、ごめんなさい、だ。
「どうぞ、座って」
食事が用意されているダイニングスペースではなく、部屋の中央に配置された応接セットの方に座るように促され、小さく息を吸い込む。
私が、やるべきこと。
まずは一つ目。
小さく息を吐き出し、私は笑顔を作って、口を開く。
「すみません。なんだか緊張してしまって。おトイレ、お借りしてもいいですか?」