そして、従兄さんが押した目的階のボタンの数字は、『15』。オレンジ色に光るその数字を、私は茫然と見つめた。

 15階は、最上階。

 ここの最上階は、ペントハウスになっていて、二部屋しか存在しない。
 
 一つは、谷田部課長の住んでいる部屋。

 そして、もう一つは――。

 前回、課長の部屋に来たときに聞いた、課長と探偵さんの会話の断片が脳裏に浮かび上がる。

「長期滞在予定で、ここに来てますよ、あの御仁」

 探偵さんの報告に、課長はとても驚いた様子だった。

「ここって、このホテルにか?」

「ええ。昨夜遅く、向かいの部屋に入りました。それも、とても美しい随員付きで。彼女は、最近入った秘書課の新人の子ですね」

「社長に、あれだけ釘を刺されておいて、まだ懲りないのか?」

「それで懲りるような人間なら、周りも君も、苦労はしないでしょう?」

――あの会話の前、探偵さんは、盗撮写真の出どころについて、なんて言った?

「正確に言えば、ヤッコさんが雇ったあまり性質(たち)の良くない、僕のご同業です。金を積まれれば、違法スレスレの、というか立派に犯罪モノのことを平気でやってのける輩ですよ」

『課長の隣の部屋の住人』

 イコール『ヤッコさん』

 イコール、『犯罪スレスレのことをやってのける人間を雇って、盗撮写真を撮らせた人物』

 イコール――

 あの時は気にも留めなかったワードの数々が、まるでパズルのピースのように、はめ込まれていく。

 鳩尾に、氷のような、冷たい何かが滑り落ちる。

 チンと、目的階に到着したことを告げるベルの音が、四角い密室に虚ろに響き渡った。