「楽しみにしていたんだが、残念だな」
たいして気分を害した様子もなく、従兄さんは笑顔で肩をすくめた。
ごく普通のライトな反応に、心底安堵する。
――良かったぁ。
第一関門、二人で食事は免れた。
「じゃあ、時間短縮で、食事は後日の楽しみにしておくか」
「すみません」
――よし。
次は、話し合いの場所を、談話スペースにしてもらおう。
「それと、場所なんですが……」
「うん?」
「わざわざ、お部屋にお邪魔するのは申し訳ないので、そこの談話スペースにしていただけると――」
「それは、やめた方がいいな」
『ありがたいです』の言葉は発する暇もなく、冷然とした態度でピシャリと遮られてしまった。
言葉じりは柔らかく声を荒げたわけでもないのに、低いトーンの声に有無を言わせないような厳しさを感じ取り、あまりの激烈な変化に驚いて、まじまじとその表情を仰ぎ見る。
口元に浮かべていた笑みを消した後に残っていたのは、痛いくらいにまっすぐ私を見据える、銀縁メガネの奥の温度を感じさせない、冷たい視線。
「どこでだれが聞いているかしれない場所で、できるような話ではないと、わかっているのかな?」
「そ、それは、理解しているつもりですが……」
「それは、よかった」
内心、かなりビビりながら返事をすると、にっこりと柔らかい笑みを向けられた。
でも、今更だ。
課長とは似ても似つかない、尊大で冷徹な一面。
私は今、この人の、そんな本質を垣間見た気がする。
苦手意識は超加速して、瞬間風速的に、恐怖の域まで達してしまった。
蛇ににらまれたカエル、再び。
それ以上、この状況から逃げ出す妙案は浮かばず、無情に降りてきたエレベーターに乗り込むしかない。