今、私は切実に、課長がいてくれたらと願っている。そんな弱腰の自分に気合いを入れる。
――しっかりしろ、梓。
もう、一人前の大人の女なんだから。
あの人に庇護されていればよかった、何も知らない女の子じゃないんだから。
しっかりするんだ。
そうして、主に従兄さんの質問に私が答えるという一方的なコミュニケーションパターンで、なんとか如才ない答えと笑顔で場を持たせながら、リムジンに揺られること数十分あまり。
陽はすっかり傾いていた。
夜のとばりに抱かれ、イルミネーションに彩られはじめた街並みを縫って、到着したのは見覚えのある大手ホテルの玄関前だった。
横付けされたリムジンから従兄さんに促されるまま降り立ち、私は、煌々とした明かりが漏れ出す、その風格ある佇まいを呆然と見上げた。
――どうして、ここに?
食事をするというからレストランにでも行くのかと思ったのに。
確かに、ここにもレストランはあるだろうけど。
予想に反した、意外すぎる場所。
私がここを訪れたのは、ほんの一か月半ほど前のこと。
ここは、谷田部課長の住んでいるペントハウスのある、あのホテルだった。