「初めまして。谷田部課長には、いつもお世話になっています、高橋です」

 どうにか笑顔を形作り、あたり障りのない挨拶の言葉を口にする。

「初めまして。谷田部(りょう)です」

 こっちは緊張で膝が笑いそうになっているのに、相手は余裕の笑みを浮かべている。

――なんか今の私って、蛇に睨まれたカエル……?

 多少強引な所はあっても、人あたりも良いし、別に怖い人ではなさそうなんだけど。

 だいぶ年が上なせい?

 この状況を割り引いてみても、なんだか変に委縮してしまう。

「失礼します」

 ペコリと小さく会釈をして、革張りの豪奢(ごうしゃな)イスに腰を下ろした瞬間、

――うわ、なにこれ?

 予想外な座り心地の良さに、目を見張る。

 浅く腰掛けるつもりが、しっかりどっかり座り込んでしまった。正に、ジャスト・フィット。

 体を包み込むような、絶妙なフォルムとクッション性。

 さすが高級車。

 なんて、変な所に感心していたら、車が、スッと音もなく動き出した。

 そこで初めて浮かぶ、純粋な疑問が半分、不安が半分。

――どこに向かうんだろう?

「あいつが、迷惑をかけているんじゃないのかな?」

「あ、いいえ、迷惑なんてとんでもないです。課長は、いつも率先して残業もこなしてくださいますし、私の方こそ、お世話になるばかりで……」