「あの人、工務課の人でしょ……」
「いったいどういうこと?」
背後で上がるどよめきと、背中に突き刺さる好奇の視線が痛すぎる。
「どうぞ、お乗りください」
再度、運転手さんに満面の笑顔で促されて、私は心を決めた。
今更、後には引けない。なら、進むのみ。
ごくり――と、不安と緊張を飲み下し、車の中へと足を進める。
「失礼します」
軽く一礼し、上げた視線の先、車の最後部に悠然と座る人物に視線がつかまり、ドキリと鼓動が跳ねあがった。
――似ている。
何がしかのブランドものだろう、見るからに高級そうなダークグレーのスーツに身を包んだ、背の高い男性。
銀縁メガネの奥の少し鋭さを感じさせる目元や、全体の雰囲気が谷田部課長によく似ている。
間違いなく、この人は課長の血縁者だ。
従兄というから、同じ年代の人を想像していたけれど、だいぶ年上。
たぶん一回りは上だろう、中年の紳士だ。
「忙しい所、呼び出してすまなかったね。高橋さん」
私を観察するように向けられていた強い視線が、柔和そうに緩んだ。
――うわっ。これは、だめかも。
だめな、気がする……。
なんだって、こんなに似てるんだ?
ただでさえ緊張しまくりな状況なのに、さらに緊張の度合いが増してしまった。
この人物相手に、冷静に話しができるだろうか、私。正直、自信がない。せめて、課長がいてくれたらよかったのに。
課長ってば、肝心な時にいないんだから、もう!
この窮状を知る由もない課長に心の中で八つ当たりをしていたら、「さあ、こちらへどうぞ」と、にっこりと人好きのする笑顔で右隣に座るように促されて、ハンドバックを握りしめた手にじっとりと汗がにじんでしまう。
若干、おぼつかない足取りで、進められた後部座席まで歩み寄った。