「わかりました……。ええと、どこに伺えばよろしいでしょうか?」

「良かった。会っていただけると信じていたので、今、会社の前まで来てるんですよ」

――はい?

「下に車を付けてありますので声をかけてください。それでは、お待ちしています」

――えっ!?

 返事をする隙もあらばこそ。

 自分の言いたいことを言い終えるや否や、電話の主は、プチリと電話を切ってしまった。

 ツーツーツーと、むなしい音だけが鼓膜を通りすぎていく。

 声は課長にそっくりなのに、なんだろう。このスーパーな押しの強さは?

 丁寧で柔らかい物腰という名のオブラートに包まれた、有無を言わせぬ強引さに思わず点目になって、すでに切れている受話器を呆然と見つめる。

――この人、私が断ったら、いったいどうするつもりだったんだろう?

「先輩、何か、現場でトラブルでもあったんですか?」

 受話器を呆然と見つめている私の姿を見て心配になったのか、美加ちゃんが、気づかわしげに声をかけてきた。

 トラブルって言えば、超・トラブルだけど、仕事には関係ない。

「ううん、個人的なこと。私、ちょっと、今から出てくるね」

「今からですか?」

「うん」

 驚いたように目を丸める美加ちゃんに、コクリとうなずき席を立つ。

「たぶん1、2時間で戻れると思うから、デスクの上はこのままで行くけど。美加ちゃんは、キリの良い所で先に上がっていいからね」

 着替えはどうしようかと迷ったけど、もう既に下に車を付けているなら、待たせてはそれこそ失礼だ。

 制服のままで、財布と携帯を入れたハンドバックを小脇に抱え。

――よし、準備は、OK。