「い、従兄弟さんですか!」
「ええ、『兄』の方の従兄です」
とっちらかって『さん付け』したのがツボに入ったのか、答える声は完璧に笑っている。
――うわ、恥ずかしすぎるっ。
「し、失礼いたしました」
とんだ勘違いに冷汗をかきながら、電話越しにペコペコ頭を下げる。
「声がよく似ていらっしゃるので、てっきり谷田部課長かと……」
「いえ、こちらこそ。先に名乗るべきでしたね」
――はい、ぜひ、そうしてください。心臓に悪いので。
「あの、課長は、今日はもう退社しておりますが?」
「ええ、承知しています。お話しがあるのは『あなたに』なんですよ、高橋梓さん」
「はあ……」
なんで、私?
課長の従兄さんが、何の用なんだろう。
面識はない――はずだけど。
「お忙しい所申し訳ないのですが、今から、会っていただけませんか?」
――どうしよう。
課長抜きでっていうところが、妙に引っかかるなぁ。
「……すみません。今日中に仕上げたい仕事がありまして。あの、今、電話でお話しいただくわけにはいかないでしょうか?」
仕事が押しているのも確かだし、正直言っていくら課長の身内でも、初対面の人と二人きりで会うのは気が進まない。
失礼かな?
でも、電話でことがすめば、それに越したことはない、と思ったのだけれど。
「――実は、東悟の婚約に関して、少し困った状況になっていまして。それが、あなたにも関わりがあることなんですよ、高橋さん」
先刻まで加味されていた笑いの成分はきれいに払拭されて、真剣そのものの声音が告げた事実に、ドキリと身がこわばった。