「……まあ、あっちも、これと言って何もない……かな?」

「ふーん。相変わらず、甲斐性なしなんですね、あの色黒ボクネンジン」

「あははは……」

――美加ちゃん、なぜそんなに、飯島さんには手厳しいわけ?

 馬が合わないってやつかしら?

「さあさあ、話はこれくらいにして、仕事をしよう、し・ご・と!」

「ふぁーい」

 ようやく気がすんだのか、それとも、これ以上私から面白いネタは聞き出せないと踏んだのか。

 ギュルギュルと寄せていたイスを自分の席に戻し、美加ちゃんは大人しく図面台に体を向けた。

 私も、習って自分の図面台に意識を集中させる。

「うーん。まずはスリーブ管の位置記入を終わらせちゃおうかな……」

 さあ、今日中に、終わらせるぞ!

 と、気合いを入れたところで、デスク端に置いてある固定電話の着信音が上がった。

 視線を走らせると、工務課直通の番号に外線からかかってきていた。

 会社の代表番号は六時に自動案内に切り替わってしまうから、工場や現場からの電話は、この直通番号にかかってくる。

 表示されているのは、個人の携帯番号のようだ。

 現場からの連絡かな?

「あ、私が出るからいいよ」

 電話に出ようと手を伸ばしかけた美加ちゃんを手で制し、受話器を取った。

「太陽工業・工務課・高橋です」

「もしもし、高橋梓さん?」

――あれ? 

 この声は、谷田部課長……よね?