――忘れてた……わけじゃないけど。

 いつかの遊園地での鉢合せを思い出し、跳ねた鼓動は、変なふうに乱れ打つ。

 ブランドものの服に、優雅な身のこなし。

 そして、甘い香水のかおり。

『課長の婚約者候補』

 あえて考えないようにしていた、その存在が、私の心の内側をじりじり焼き焦がす。

 課長の口から、彼女のことが話題に出ることは一度もなかったけれど。その後、どうなっているのだろう?

 婚約者候補との、その後――

 って言ったら……。

「いきなり、結婚式の招待状が届いたり、しませんよね?」

「まさか」

 笑って否定してはみたものの、ありえない話でもないことに気付き、浮かべた笑顔がヒクヒクとひきつった。

 もしも本当に、いきなり結婚式の招待状が届いたりしたら、私は、いったい、どうするんだろう?

「先輩、課長から、何も聞いてないんですか?」

「ないない。なんで私が聞いてると思うのよ」

「だって、そりゃあ色々と目撃してますから、あ・た・し」

 にっこりと。至近距離で晴れやかな笑顔を向けられて、うっと、言葉につまってしまう。

「み、美加ちゃんっ」

「大丈夫ですよー。先輩のあんなことやこんなこと、他言したりしませんから」

「……」

 あんなことやこんなことが脳内を勢いよく駆け巡り、返す言葉が見つからない。