私と課長と美加ちゃんの三人で、真夜中の酒盛りをしたあの日から約一か月あまりが過ぎ、残暑厳しい八月も後半に突入した。
腕のケガもほぼ完治し、事件の影を引きずることもなく、美加ちゃんは今日も張り切って残業にいそしんでいる。
もちろん、御多分に漏れず私も残業組なわけだけど。
いつもと違うのは――。
「そういえば、谷田部課長って、木曜日は残業しない率高いですよねぇー」
隣りの席から飛んできた美加ちゃんのふと思いついたような質問に、私は図面の上に走らせていたシャーペンを止めた。すぐ隣にある、主のいないガランとした課長席に視線をさまよわせる。
いつもなら、華麗なるシャーペンさばきで率先して残業をこなしている上司さまの姿が、今日は見えない。
『今日は用事があるから先に上がらせてもらうよ』と、いつもの笑顔を残して、谷田部課長はめずらしく定時で退社していた。
――そういわれてみれば、先週も先々週も定時で帰っていたような。
「いつも同じ曜日っていうのが、気になりますよね~」
美加ちゃんの声のトーンが、妙な具合に熱を帯びてくる。
何気なく口にした自分の問いに、がぜん、興味をそそられてしまったらしい。
美加ちゃんの情報アンテナが、クルクルと回っているのが見えるようだ。こういう瞬間、この娘の顔は一番イキイキしている気がする。
「課長だって色々あるんでしょ。ほら、用事があるからって言ってたじゃない?」
苦笑しつつ答えると、美加ちゃんは、ギュルギュルとキャスター音を響かせてイスごと体を寄せてきた。
「例の婚約者候補とかいう女性と毎週、デートとかじゃないですよね?」
「え……?」
ヒソヒソと耳打ちしてきた美加ちゃんの言葉に、ドキリと大きく鼓動が跳ねる。
「どうだろうねぇ」