「本当に、『すぐ』に、知らせてくれよ?」

『すぐ』にのところに妙な力がこもっているのが、少し面白くない。

「なんですかその不審げな眼差しは? ちゃんとお知らせしますよ。私、怖いのは苦手ですから」

「……本当に?」

 うかがうように見つめられて、思わず、ドキリと鼓動が跳ねる。

 なんだかもう、仮にも年上の上司に対して、『その表情可愛いー』とか思ってしまった自分が、恥ずかしい。

「本当に、本当に!」

 照れ隠しにこくこく頷き、さりげなく腕時計に視線を外す。

「あ、ほら、もうこんな時間ですよ。病院、混んじゃわないうちに行きましょう!」

「もう、だいぶ具合はいいんだが。やっぱり、いかなきゃダメか?」

 またまた、うかがうように見つめられて、一瞬合ってしまった視線を慌てて外す。

「ダメです」

「ほら、今日一日ゆっくり寝てれば治るから」

「病院に行ってから、お薬を飲んでゆっくり寝た方が、もっと良く治りますよ」

 目を合わせると(ほだ)されてしまいそうになるから、鼻を頭あたりに視線を固定してにこにこ微笑むと、課長は言葉に詰まった後、あきらめたように溜息をついた。

「……そうだな」

「はい、そうです」

 かくして。

 最後まで気が進まない様子だった課長を無事病院に送り届け、ただの風邪という診断結果に、一安心。

 こうして、私の、ちょっとスリリングな非日常体験は終わりを告げた。

 はずだった――。