そう。

 よりによって『私の隣』。

 補佐役の私は、『課長のお隣』。

 何だか、瞬く間に工務課内でそう言う暗黙の了解が出来てしまったみたいで、当たり前のように私の席は課長の隣に用意されていた。

 なるべく課長から遠く離れて、こっそり影を薄ーくして目立たないでいようと言う私の企みは、かくも儚く砕け散ったのだった。

 それにしても。

 これって、拷問に近いんですけど?

「高橋さん――」

「は、はいっ、なんでしょう」

「君には、当分面倒をかけてしまうが、改めてよろしく頼みます」

 って、課長は柔らかい笑みを浮かべて、ビール瓶を差し出した。

 今日は、お酒を控えよう。

 そう思っていたけど、社会人として、これを断る訳にはいかない。

 そもそも、部下の私の方が先にお酌してしかるべきなのだ。

「いいえ、こちらこそ。まだまだ未熟者ですが、私に出来ることでしたら、なんでも言いつけてください」

 ニコリ。

 ちょっと引きつり気味の笑顔を作ってみたけど、成功しているか甚だ怪しい。

「ビールで良いですか? 後は、日本酒とウイスキーもありますけど」

「そうだな、じゃあ、薄目の水割りを貰おうかな」

「はい、水割りですね」

 思えば、東悟と付き合っていた頃、私はまだ十八、九歳で。

 缶ビールを美味しそうに飲んでいる東悟の傍らで、いつもオレンジジュースを飲んでたっけ。

 悪戯心で舐めたビールの、ほろ苦い味。

 こんな苦いモノをどうして『美味しい』というのか、不思議だったけど。今じゃ、その味も分かるようになった。