「なんだか……」
「ん?」
「私、基本的に、自分で見聞きしたものしか信じないようにしてきたつもりなんですけど」
「うん」
流す人の思惑に彩られ、長い尾ひれが付く人の噂ほど、あてにならないものはない。
二十八年の人生で、そういう場面を、何度となく見てきたから。
なるべく、自分の目で見、自分の耳で聞いた事実以外は安易に信じるのはやめよう、そう、戒めてきたけれど。
目に『そう見える』事象が、真実とは限らない。
火のない所に煙は立たないのだとしても、目に写るものと、その奥にある真実にこれほどのギャップがあるなんて。
「これからは、芸能人の熱愛スクープ写真を見ても、九割方は信じられなくなりそうです、私」
「そうだな」
なかばやけ気味に愚痴る私に、課長は、苦笑ではなく柔らかい笑みを向ける。
それは男が女に向けるような艶めいた視線ではなく、あえて言うなら、課長が愛娘の真理ちゃんに向けるものに似ている気がした。
父親が娘の成長を見守るような、そんな慈愛に満ちた表情。
なんて言ったら、おこがましいけど。
それでも、ドキドキと、その笑顔に私の鼓動は敏感に反応する。
……だから、その笑顔は心臓に悪いから、やめてくださいってば、もう。
自分が大切に思われてるって。
愛されてるかも、なんて。
変な誤解をしちゃいそうになるじゃないの。
心の中で、一人ごちり、
「ええっと、次の写真は――」
心の動揺を見透かされないように、私は、次の写真に視線を落とした。