『梓さんって、ばか正直に顔にでるから、ついつい苛めたくなるんですよ』

 不意に、いつかの飯島さんの言葉を思い出し、ひきつった笑顔は更にひきつった。

 少し意地悪な俺様スマイルが、脳裏をちらつく。

 なんで、こんなところで出てくる、色黒好青年!

 しっしっ! っと、飯島さんの残像を脳内から追い出し、グラスをトレーに下げ、ほとんど使った形跡がない台拭きでテーブルの表面をもくもくと拭いていく。

 そこで目に止まったのは、テーブルの隅に置かれていたA4版の茶封筒。

 さっき課長が、探偵さんから受け取っていた報告書らしきものが入った『あの』茶封筒だ。

 この中には、課長の他人に見られると困る写真と秘密が、いっぱい詰まっている。

 台拭きを持つ手は完全に止まり、我知らず、喉がゴクリと音を立てて大きく上下する。

「気になるか?」

 課長の長い指先が、茶封筒の上を、コツンとたたく。

「別に、そういうんじゃないですけど、なんだか深刻そうな雰囲気だったので……」

「やっぱり、気になるよな?」

 ええ、そりゃあもう、気になります。

 気になりまくりです。

 でも、気になるからと素直に『見せて見せて』と言えたのは、遥か昔のことだ。今の私には、そこまで、この人のプライベートな領域に踏み込んでいく勇気がない。