「コーヒー。ホットでもアイスでも、おかわり、ありますけど?」
「ああ、ありがとう。でも、今はいいかな。せっかく落としてもらったから、後のお楽しみにとっておくよ」
「コーヒーくらいなら、いくらでもいれますよ」
なんだか。こういうシチュエーションって、まるで新婚さんみたいじゃない?
『あなた、お食事にする? お風呂にする?』みたいな、ベタで幸せすぎる、部屋でまったりの、日常会話。
いやいやいや。
ないから、それは。
一人百面相をしそうになり、慌てておバカな想像という名の妄想をかき消すと、テーブルの上を片付けにかかる。
「課長、もしかして、食事は全部ルームサービスとかですか?」
何気なく質問すると、課長は「まさか」と、苦笑いを浮かべた。
アイスコーヒーを作るときに、チラリと覗かせてもらった冷蔵庫の中には、缶コーヒーと缶ビールが無造作に詰め込まれているだけで、食材のたぐいは全く入れられてなかった。
男性の一人暮らしだから、こんなものなのかな?
そう思ったけど、電話一本で食事が運んで貰えるなら、わざわざ材料を買ってまで、料理をすることもないのかもしれない。
もっともこんな不経済なこと、元手がなければできない芸当だけど。
「ルームサービスは、ほとんど使わないな。不経済だしな」
『だろう?』
っていうみたいに悪戯めいた視線を投げられ、心の声を聞かれたのかと、笑顔がひくひくとひきつってしまう。
――エスパーですか? 課長。
時々ある、こういう瞬間。
まさに、ジャスト・ミートで考えを読まれては、ドキリとさせられる。