探偵さんの分のグラスを下げて腕時計に視線を走らせれば、十二時十分。既に、お昼を回っていた。

 中央病院までは、ここから車で約三十分ほど。

 今から向かえば、午後の診療開始時間には、余裕で間に合う。

 朝食がだいぶ遅かったから、昼食をとるには、まだ早いとは思ったけど、念のため。

「課長、お昼どうされますか?」

 キッチンスペースから、ソファーに腰を下ろしてアイスコーヒーの残りを飲んでいる課長に聞いてみる。

「ああ……昼か。俺は、まだいいかな。あまり食欲ないし。君はどうする? 何か食べるなら、ルームサービスを取るけど」

 ルーム・サービス!

 課長の口から、当たり前のように飛び出した、ハイソ・ワードに、思わず目を丸める。

 そうか、そういう便利なモノがあるのか。どうりで、冷蔵庫が空のわけだ。

「あ、これ、ごちそうさま」

「あ、はい!」

 洗っていたグラスをキッチンカウンターに伏せて、小走りに課長の元へと向かう。

 受け取ったグラスは、空になっていた。

 普段はブラックコーヒー・オンリーの課長だけど、体が弱っている今は甘めの方が良いかなと思って、ほんの少しだけ砂糖を入れた『微糖アイスコーヒー』はお気に召してもらえたらしい。

「美味しかったよ」

 お褒めの言葉と柔らかい笑みを向けられて、思わず頬の筋肉が、へにゃりと緩みそうになる。リップサービスだとわかっているけど。

 嬉しいものは嬉しい。