「今度三人で、酒盛りでもしましょう」
「え、あ、はい。そうですね、ぜひ」
いきなりのお誘いに、とまどい、しどろもどろになってしまう。
でも、私に向けられる探偵さんの眼差しは男性のものと言うより、近しい肉親のそれのように柔らかい。
「別に、二人きりでもいいですけどね、僕は。あ、ちなみに、僕はフリーなので、ご心配なく」
「あ、あははは……」
「こら、へっぽこ! 人の部下をナンパするんじゃない」
「はいはい、へっぽこは、退散しますよ。馬に蹴られたくはないですからね」
「お前なぁ……」
「それでは、さようならー」
バイバイと手を振りながら、まるで不思議の国のアリスに出てくるチェシャ猫のような笑みを残して、訪れた時と同じ唐突さで、麒麟探偵は部屋を去って行った。
台風一過。
パタリと、ドアが閉ざされた広い部屋に満ちたのは、なんとも言えない脱力感。
でもそれは、けっして不快なものではなく、見送りに出た玄関ドアの前で課長と二人、顔を見合わせて思わずクスリと笑いあう。
「騒がしい奴で、申し訳ない。あれでけっこう有能なんだが……」
「楽しい方ですね。好きですよ、私。ああいう人」
麒麟探偵さんこと、風間太郎さん。
今後、どういう関わり方をするかは分からないけど、たぶん、良い友人になれる。
そんな気がした。